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宮崎地方裁判所延岡支部 昭和23年(ヨ)38号 決定 1948年12月27日

申請人

藤田勝

門内政則

被申請人

旭化成工業株式会社

当裁判所は申請人の申請を理由ありと認め申請人に保証として宮崎司法事務局延岡出張所に金一万円を供託せしめ主文の通り決定する。

主文

本案裁判の確定に至る迄申請人等は被申請会社の従業員であることを認める。

申請

宮崎地方延岡支部昭和二三年(ヨ)第三八号仮処分申請事件(昭和二三、一二、二三申請)

一、当事者

申請人 藤田勝

同 門内政則

被申請人 旭化成工業株式会社

二、申請の趣旨

被申請人は申請人等が被申請人の従業員であることの仮の地位を認め原職に復帰就業せしめなければならないとの裁判を求める。

三、申請の理由

(一)、申請人等は旭化成工業株式会社延岡工場労働組合(以下延労と称す)員であり申請人藤田勝、門内政則は延労レーヨン支部員であり被申請人は申請人所属組合員全部を雇傭している会社である。右会社と組合との間に昭和二十三年八月二日以来賃金値上げ其他の労働条件について争議勃発し昭和二十三年十月二十日一応解決をみたのである。

(二)、然るに被申請人会社は争議終了後延労組合員に対し差別待遇を為し不当解雇等種々の弾圧を加え同組合の解体を企図し特に争議期間中組合役員、支部委員、防衛隊員等の職務に於て活動を為したる者に対しては争議解決後も正規の業務(原職)に復帰せしめず新設した臨時工事係整備係等の特殊な悪条件の仕事を課し他の従業員と差別して奴隷的作業に従事せしめているのである。

(二)、申請人藤田勝は昭和二十二年七月二十六日被申請人会社延岡工場レーヨン部に入社し昭和二十三年十月二十五日迄引続き同部紡糸係ハ組に勤務し争議期間中は防衛隊員として組合業務に従事していたものであるが被申請人は同申請人の争議期間中の活動を憎み争議終了後同年十月二十六日附整備係に転籍されたものである。

(四)、被申請人は昭和二十三年十一月十三日作業現場に於ける申請人藤田勝の行為及び同日午後六時頃レーヨン部女子寄宿舎門前に於ける守衛古川寅夫との対談を以て係員を脅迫したものとして就業規則第七十三条違反として昭和二十三年十二月四日懲戒解雇をした然れども申請人藤田勝の右の行為は疎明資料に上ぐる申請人藤田勝及び工藤來、中竹義光、東國治、州口巖、井上治幸、白井理之、宮里客夫、河野惠、松田秀丸等の事実申立書に依つても明かなる如く全然前記の如き脅迫事実等はないのであり反つて右守衛に依つて馘首を暗示され脅迫を受けたのであつて申請人藤田勝は之に応答したに過ぎないのである。

(五)、申請人門内政則は昭和二十二年九月八日被申請人会社延岡工場レーヨン部に入社し昭和二十三年十月二十五日迄引続き同部紡糸係ロ組に勤務し争議期間中は防衛隊員として組合業務に従事していた者で争議終了後同年十月二十六日附にて整備係に転籍させられ同じく他の従業員と差別的且奴隷的取扱を受くるに至つたのである。

(六)、被申請人は昭和二十三年十月六日(当時は争議期間中でも最も争議が激化していた)午前一時二十分頃申請人門内政則が休憩時間中同僚佐藤桂夫と争議問題に関して談話中口論となり感情問題迄持上つたのであるが之を以て工場内の秩序を乱した如く故意に事実を歪曲して同じく就業規則第七十三条違反としてしかも争議終了後の昭和二十三年十二月四日附懲戒解雇に附したのであるが之に付ても疎明資料中申請人門内政則及び河野哲郎、三崎忠義、下川義信、松岡幸弘等の事実申立に依つても明かなる如く門内政則が故意に工場内の秩序を乱し或は暴行に及んだ等の行為はなく従つて就業規則に何等該当しないものである。

(七)、右の解雇は法律上次に述べる如く無効である。

組合連合会と会社間に締結した労働協約第四条によれば「乙(組合)の加盟組合員の解雇転勤は甲(会社)之を行うも乙又は乙の加盟組合より異議ありたる時は協議し協議整はざるときは甲之を行はず」と規定してある又延岡工場組合と会社との団体協約第四条にも同趣旨の規定がある。故に本件解雇処分が労働協約違反であることは明白である尚労働基準法第九十二条によれば「就業規則は法令又は当該事業場に適用される労働協約に違反してはならない」と規定してあつて本件解雇処分が違法であり当然に無効であることは一層明白である。

此の点については目下宮崎地方労働委員会に提訴中であるが被申請人会社のかかる違法行為は他にも目に余るものがある。

(八)、以上の理由によつて本件解雇処分は無効であり之に付ては本案訴訟を準備中であるが其の確定まで猶予する時は申請人等の生活権団結権は不当に脅かされる又現に申請人等は寮生であるが被申請人会社は立退きを要求し事実上その生活権を脅している。よつて申請に及んだのである。

(疎明省略)

宮崎地方裁判所延岡支部 御中

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